Live at KOZAGAWA / E.D.F.
2006年10月8日に和歌山県東牟婁郡古座川町にて行われたE.D.F.のライブの音源をCD化。 夜空に月がぽっかり浮かんだ幻想的な夜の、自然に囲まれたその雰囲気がそのまま音になっています。
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<上田博久氏によるライナーノート(未省略版)>
遠泳の残像
E.D.F.リーダー清水武志君との出会いは数年前、障害者カヌー仲間である彼の奥さんの紹介だった。
「父方のお婆ちゃんが古座川出身です。宜しくお願いします」とフランスの名車2CVから、丸顔に無精ヒゲで現れた。 仕事はジャズのアーティストをやっているという大阪生まれの彼は、父方のお婆ちゃんが古座川出身で、お父さんも戦時中、疎開で古座川にしばらく暮らした。 ただ、六十年の歳月を前に人も集落もすっかり入れ替わっていて、知る人さえもいないということだった。 僕には、ある寂しさがこみ上げてきた。戦後すぐの頃は、古座川も一万人ほどの人がいて華やかだったそうだが、高度成長期には多くの人が都会に出て行き町は寂れた。 僕自身、子供心にその当時の寂しさは覚えていて少しセンチメンタルな気分になった。 お婆ちゃんは、古座川をどんな風に感じていたんだろう。子供の頃は、どんなんだっただろう。懐かしかったかな? 人は、死を迎える時いろんな思い出が走馬灯のように廻るというが、古座川を思い出しただろうか。水は恋しくなかったかな?
あの出会いの日から、清水君達はもうどれくらい古座川に来たのだろうか?仕事終わりを待って、夜中の道を2CVにキャンプ道具を満載にして走って来る。 いつも、気持ちのよい仲間も一緒で、キャンプや焚き火、カヌーといったアウトドアを共に楽しんでいる。
当時、ジャズピアニストとの認識は薄く本職は車屋さんだと思い込んでいた。なぜならピアノを弾く人にとって、指を大事にするのが当然のように思っていた僕が見た彼の手は、 いつも爪にオイルが入っていたりして汚れていたからだ。 ある日、キャンプ上がりにピアノ演奏をせがんでみて感動した。そして、今回のライブとカヌーツーリングの企画を思いついた。 昼間はカヌーでくたくたになるまで自然に浸り、夜はE.D.F.のライブ音楽と酒に溺れるという内容だった。
当日は、百名ほどの人が会場となった、月野瀬温泉 ぼたん荘に集まってくれた。板張りのワンフロアーに座る人、寝そべる人、外に出て月を眺めながら酒を飲み聴く人、 様々なスタイルで楽しんでくれていた。夜空には最高の満月が出て、街灯の少ない暗闇の中に山々がまた一段と黒くて、 近くで鹿や狸が聞いていてもおかしくない田舎にジャズが流れとても不思議な夜となった。 振り返ると当日の参加者の中には、清水君のお父さんもいて昔話をしたり、結婚を目前にしたカップルが考え深げに時を過ごしている姿も見えた。 当時、仲間にしか過ぎなかった男女も数年の付き合いを経て結婚をした。あるカップルには、子供も出来た。 我が家の息子は、初めて聞いたジャズがカッコいいと、それいらいE.D.F.の曲をヘッドホンステレオで聞いている。 また、ある人はそれ以外では会ったことはないが、紀南に来ることがあれば、便りをくれたりしている。 E.D.F.メンバーもドラムを担当していたベーカー土居さんから光田 臣さんに変わり、カヌー仲間の一人はあの世へ旅立っている。 今回、お婆ちゃんに会いたくて思い立った企画だったが、僕らはまた新しい何かを受け継いだような気がしてならない。
さて、今回、このCDセレクト5曲の個人的な感想を述べると
① Real Perment Echo
レーダーに映る飛行機の機影を意味するとHPで紹介されているが直訳すると永遠の反響となるが、僕には永遠の残像と思えた。 静かで柔らかい序章部は、水に落ちた波紋の広がりを連想させ、その波紋が永遠に広がり続けるように思えた。 今回のライブのテーマにそった選曲ではないか!恐るべし、清水武志である。
②Ghost Wall
HPでは、ある店に因んだとしか紹介されていないが、これもまた、魂というキーワードをもちい壁を超えて楽しもうと聞こえた。
③Moon
本当に綺麗な満月が空にあり、その光をうけて川は輝きその向こうに山々があったことを思い出す。この日のエピソードとしては、噂になったウサギのぬいぐるみのまま旅をする人との遭遇もあった。
④Keynote(紀伊の音)
このライブで、初めて演奏された曲で文字通り紀南を感じさせてくれている。
⑤Little One
僕と清水君を結びつけてくれた奥様に捧げた曲だというが、この曲で二人が踊っている姿を連想させ、「人生を君と楽しんでいるよ」って声が聞こえてきそうで羨ましい。
総じて、「いろんなことがあるよね。いろんなことがあったよね。でも、僕らは楽しんでいるよ。お婆ちゃん」と言うような選曲となっているように思えてならない。
(故)開高剛曰く、「川は眠らない僕らが寝ている間もとうとうと流れ、さまざまな物を刻んでいくのだ。森羅万象形は変われども質量は変わらない。だから楽しめよ、ランプが切れる前に」 今回、このCDを手にしてくれた方々、またライブにお越しくださった方々はじめ協力いただいた皆さんの人生が有意義で楽しい人生であることを願ってやみません。
最後に、古座川の紹介
古座川は世界遺産の地、熊野の屋根と言われる大塔山から本州最南端の太平洋に流れ出る清流だ。ぼくは、故郷のこの川を拠点にカヌーのガイドとインストラクターをしている。 流域には豊かな自然が残り川は底の石までクッきりと見えるほど透明で、カヌーイストで作家の野田知佑さんも 「最近、話題になっている川で水のきれいな銘川だ」と小学館のアウトドア雑誌「BE-PAL」で紹介してくれている。 また、作家(故)司馬遼太郎さんも自分の川舟を持ち古座川で川遊びを楽しんだそうで「街道を行く」や「木曜島の夜会」で紹介してくれている。
上田博久
カヌーインストラクター